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エンジニアブーツ、ヘッドバット

ESSAY

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 久しぶりに新幹線に乗った。僕は飛行機が苦手だから長距離移動は車か新幹線ということになる。

 弁当やビール、それからつまみやお菓子、コーヒーやジュースなどを満載したカートを押して売り子の女性がやってくる。僕はこのカートが好きで横に止まるとついつい見入ってしまう。高さ1メートルに縦1メートル横幅50センチくらいのボックス状で抽斗やドアみたいのも付いていてコンパクトで機能的に出来ている。余計な装飾は一切ない超実用機だ。客がビールと弁当を注文すると保冷室になっているドアをパカンと開き中を見る事なく缶をひとつ取り出す。もちろんその手に握られているのは、冷えたビールなんである。僕はまだ見た事がないが、間違って「おーいお茶」かなんかが飛び出してきたりするんだろうか。一年に一回くらいはドッキリサービスとしてハトでも出してくれたりしたら、それみたさにこぞって注文し売上は倍増なんて事になるはずだ。他にも例えば台の一番上に一羽だけヒヨコを乗せて登場する「ぴよぴよ台車」や密かにあの抽斗にエロ雑誌やDVDを入れている「18禁台車」なんてのもいいんじゃないか。JRさん、是非一度検討をお願いする。

 

 おでこが痛い。頭突きをしたからである。酔っ払って写真家のK君に4、5発ぶっ放したのである。

 僕にはこの頭突き癖というかヘッドバットスイッチのようなものがある。2年に一度くらい、プールで背泳ぎしたいな、みたいな感じで無性にしたくなるのである。それが昨日だったのだ。これは何の前触れもなく起こるものなのでよくよく考えてみるととても危ない。

 例えば青山なんかの街中で頭突きしたい発作が起こったりすると、そこらにいる綺麗なご婦人にゴツン、外国からきた観光客にゴツン、犬の散歩をしているひとにゴツン、ついでに足元にいたミニチュアダックスフントにもゴツンとしてキャンといわせてしまう事になる。完全に連続通り魔である。事件である。

 ニュースになんかなったらもっと大変で、マスコミが僕の実家や祖母の家にまで押しかけ、ピンポンを連打して無理やり引っ張り出し、「人間だけではなくダックスフントにまで頭突きする凶悪事件を起こしたんですが、どんなお孫さんでしたか、どんなお気持ちですか」なんて質問を浴びせかけ、まったく関係のない90歳近い僕のばあちゃんに「昔から優しくて、ダックスフントにまで頭突きするような子ではないはずなんですが、頭突きをされた皆様、本当に申し訳ありません」なんてコメントを言わせたりするんである。気をつけなくてはいけない。

 ところで運悪く僕の頭突き被害にあったK君は髪型をモヒカンにし、さらにそのモヒカン部分にパーマをかけプードルのような頭にしている人間である。それから年中エンジニアブーツを履いている。今思い返してみるとおそらくここ、エンジニアブーツにアクシデントの小さな突起があるように思われる。しかしK君はまったく悪くない。

 僕はミュージシャンのMIWAのファンである。だから僕はミュージックフェアをよく観る。彼女のトレードマークは黒のエンジニアブーツだ。僕は昼間からビールを呑みながら二人で馬鹿話をしているときに、そのことを言ったのだった。

 

僕「MIWAちゃんの真似をしておるのか」

K君「違います」

僕「じゃ、脱げ」

K君「嫌です」

僕「MIWAちゃんのファンか?」

K君「違います」

僕「じゃ、脱げ」

K君「嫌です」

僕「……。脱げ」

K君「イヤ」

 

 この時にすでに僕のまるでとんちんかんなフラストレーションが生まれていて、それが酔いに促され思い出された瞬間に、偶然にも2年に一度のヘッドバットスイッチが入り、両隣どちらでもよかったのに迷う事なくK君にやってしまったのかもしれない。頭突きというのはお互いに痛い。痛み分け、喧嘩両成敗みたいな感じでとんとん、忠臣蔵みたいなことにはならない。という僕の勝手な考えもあるから、まるで反省をすることがない。しかも一発やると興が乗ってしまい高笑いしながら、数発続けてしまうのである。完全な悪代官である。

 謂れのない頭突きを突然食らったにも関わらず、K君は僕のことをぶん殴るでもなく、ボケたおじいちゃんに接するように優しく対処してくれた。感謝しなくてはならない。K君は空き地ばかりを何年も撮影し続けるとてもストレンジな、僕の好きな若き写真家である。

 他にもいろいろあってとても楽しい京都の夜だった。