ノーフューチャーサラダ

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 店長の気まぐれサラダというのがあったが、少し考えてからやめた。危険かな、と思ったのである。

 なぜかというと、気まぐれというのは気まぐれであり、例えば37度5分か、少し熱があるね、というような基準みたいなものがなく、安定性があらないということでグラグラ、作る人の性格や趣向及びセンスによってその振り幅が大きく異なるので、当然客と作り手の相性みたいなものが重要になるが、初めて入った店でこちらもあちらもまるでお互いを知らん、ということで気持ちを察するという心の折衝ができぬのであり、満足のいく気まぐれが供されることはないと考えたからである。

 しかもその気まぐれを決めるのが店長というのがまた問題で、これがアルバイトの鈴木の気まぐれというのであれば、当然シェフや同僚などの上司のチェックや物言いがつくことが予想され、客としても、つーか誰それ、学生?アルバイトに出来るの?サラダが?気まぐれが?ちょっとどきどきするね、というソフトな不安くらいで済むが、店長というのはこの職場で最も位の高い者であり、権力を握っているので例えば、とんでもないものを拵えたとしても、それだめじゃん、という者があらず、周りは、いい気まぐれっすね、うまそうっすね、などと給金を気にするあまりそのようなことを発するばかりで、本来機能するはずの危険を察知するフィルターみたいなものがスカスカになっておりスルー、そのままテーブルに運ばれるという最悪の事態となりかねない。

 他にも例えば、店長が普通の感覚の持ち主であった場合だとしても、客がモヒカンやトゲトゲのついたライダースなどを着たパンクスだったりすると、常人の気まぐれくらいではまったく期待外れで、ちっとも気まぐれじゃないぜ、といってテーブルをひっくり返えしかつ舌を出しベラベラさせた上、持っていたギターを叩き折り、弦がビヨビヨするということが起こるわけであるし、逆に客は常人で店長が変わり者であったりした場合は拵えた気まぐれが度を越していてボウルいっぱいのクルトンの上に素手で折ったきゅうり一本とレタスが3枚ばかりといったものが目の前に運ばれ、常人である客は憤慨、反転して逆上しクレーマーとなり怒髪天、店長は、このトンチキ、ボケと罵倒されかつポカリと殴られた上、「かっぱ」と金糸で絢爛刺繍されたふんどし一丁でそのクルトンきゅうりサラダを自ら食わされるということになるのである。

 ではどうすればよいか、ということになるが、やはりまず客のソウルを感じる、つまり情報を得るのが重要であるから性別や年齢、何を着ているか、どんな髪型をしているか、できればどんな音楽を好むかなどを接客係から報告を受けた上で、それぞれ考えればいいのであって、例えば客が先に出たパンクスであった場合は、ライブでもそうだが普通に演奏などしていても、ぬるいんじゃ、ボケ、下がれ、帰れ、と罵声を浴びせられるくらいだから、サラダという概念事態をひっくり返す、破壊するくらいの気合でないと当然満足して貰えないので、まずスイカ、これを玉のまま出す、だがそのままでは、スイカじゃん、となり即暴動、ギター折り弦ビヨビヨ、さらに燃やすなどをするので、スイカの表面には「NO FUTURE」とマヨネーズで書いておき、また玉を割るためのトンファーを一緒に添えておき、これは振り回すだけでストレス発散にもなるので何かと都合がよいが、なければ擂り粉木棒かなんかで代用可、サラダなのだからシーザーサラダドレッシングとクルトン、それに粉チーズをお好みでという感じで盆に載せて出す。

 毛髪を逆立てビリビリの服を着、耳鼻に金属をぶら下げているくらいだから、これくらいで丁度いいのである。

 或いはもう出さない。うっちゃっておく、サラダを。

 これはライブで客のノリが悪いから演奏を中途でやめる、楽屋でクスリをやりかつ呑みすぎて面倒になっちゃったから帰る、みたいなことにあたり、ままあることだし自分にも覚えがあるだろうから文句を言ってこない、万一言うてきても「気まぐれな店長ですから」とアルバイトが答えれば、「そうだよね」ということで事なきを得るはずで、意外だと思われる人があるかもしれないが、それはつまり、気まぐれ→奔放→自由さ→無束縛→パンク→ノーフューチャーということで論理的齟齬はなくまったく問題ない。

 いずれにせよ客それぞれのニーズに合わせればいいのであり、他に若い女子などはオーソドックスなアボカドサラダかなんかに、ハート型にくり抜いたしめ鯖、に加えさくらんぼとかイチゴなどのフルーツを散りばめておけば結果カワイイヘルシーという事になり、やはりシーザーサラダドレッシングとクルトン、それに粉チーズをお好みでという感じで盆に載せて出す。さらにおまけ的サービスという体で杏仁豆腐やチーズケーキのなどの甘味を献上。楽勝でノックアウトである。

 

 シーザーサラダを食べた。なぜならシーザーサラダが食べたかったから。忘年会で。

 のち泥酔。記憶がなくなってノーフューチャー。

 

 大阪からの帰りの新幹線で二人掛けの窓際に座っていたが、名古屋で親子連れが乗って来て、反対側の三人掛けの通路側と僕の隣とで分かれて席についた。席につくと、母親が僕の隣に座ったキッズに、気分は大丈夫、しんどかったらいってね、などと通路の向こうから声を掛けていたので、僕は席を母親と替わった。

 暫く本を読みふとそちらに眼をやると、母親に膝枕をしてもらい安心しきったイガグリ頭のキッズは熟睡していた。これはよいことをしたと極めて自惚れ、得意になり、座席上でくの字になっているキッズ越しの車窓には雪を冠った富士山が見え、さらに高揚、笛を吹き踊った。ココロガ。

 

2015年12月31日 記