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髭とポリス

ESSAY

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 最近、白髭が目立ってきた。割合が半分くらいだったり、せめて三割くらいだったりすれば、ロマンスグレイみたいな感じで渋みが醸成されモテるかもしれない、という希望的観測がたつからまだいいのだが、半端に7、8本くらいがブラックの髭中にムーミン谷のニョロニョロ様にあるだけなので、といってもちっともかわいらしいみたいなメリットはやっぱりなく、ものすごく目立ってしまうだけなのである。別に老いそのものに嫌悪感はないが目立つというのは白いものが、というのと同時に”老い始め”が認識できまくるということで、しかしこれは春の始まりみたいな初々しさもなければ、秋の訪れみたいな色気も無く、いうならば若葉の初心者マークだったり、駆け出し小僧みたいな、下ろし立てのジーンズ、ギター始めましたというか、初スキーです、転んじゃいました、みたいな素人っぽさが前面に出るだけの恥ずかしさを伴う代物なのである。

 また例えばキッズの頃、陰毛などが生え出したころなどは、増えれば増えるだけ大人になるようで少し嬉しく、また成長の大波に乗るようでベクトルが上向きであるから心持ちよいが、白髪などは同様に増えるというワードであっても大局的観点からいえばやはり老いという下降をたどっているという顕れであり、増加というプラス、ポジティブなイメージであっても気分上昇、琵琶を掻き鳴らし小躍り、ビバ!乾杯!みたいなことには決してならない。

 剃ってしまえばいいじゃない、という人があるかもしれないが、僕は高校を出てからというもの長短の変化はあったものの綺麗に髭をそり上げたということがなく、少し前に一番妥当にして直接的な対策としてやってみたが、なんだかスースーするし、あったものが在らない、というか丸出しみたいな心地で、ほとんどノーパンのフリチンで都会の往来を闊歩している感じがしてもう気が気ではなくいっそのこと本当にフリチンになった方がいくらかましではないか、と思えるほどであったので、出来ればもうそんな思いはしたくないから選択肢としては半永久的にこれを放棄している。

 この間、実家にいった際にこれといった話題もなかったので、茶受け話的に父親にそのことを言ってみると、さらりと、染めたら、という。それではと軽く検討してみたが、実際そんなことをしたら、髭などすぐに伸びるのでお金がかなりかかるだろうし、急いでいたりなどし、ちょっとでも黒染めが残って出かけたら、唐草模様の風呂敷を担いだ泥棒ヒゲの有り様ですぐにお巡りさんに声をかけられ、ポケットの中のもんを洗いざらい点検され、これで全部ですか、などとぐいぐい詰問され、僕だってできれば何か色めき立つような、例えば刃物だとか大麻だとか持っていれば出してあげたいけれど、放り出てくるのは大盛り無料券だとかキシリトールガムの銀紙、昨晩の居酒屋のレシートなどのふにゃふにゃの紙小物ばかりで攻撃的なところがなくぐだぐだし挙句、「年齢は、職業は?」などと合コンの初めに飛び出してくるみたいな質問をされ、しょうがないから「小学校を中退したのち天狗に奉公、ガマの油を売って方々を彷徨♪…」などと韻を踏んでジョークを言ってみもし、だけどお互いテンションが上がり意気投合、よし飲みに行こう、ビールで乾杯、酔いも回って、ちょっとリボルバー、拳銃撃たせてよ、うんいいよ、というような軽快なやりとりをしつつ、ついでに隣席の女子を逮捕しようぜ、といってギャルに手錠を掛けるみたいな愉快なことは無く、最終的に、ご協力ありがとうございましたなどとまるで軽いアンケートをしたみたいにいわれ、そそくさと解散。そんな生産性ゼロの不毛な時間を過ごし不快な思いをすること間違いないのである。だからこれも当然却下した。

 

 ちょっとした作業でスプレーを使用したら、手までビカビカに塗装されてしまった。石鹸をこれに塗り込め洗ってみたが、爪のところだけ綺麗に残ってしまい、僕の手は期せずしてニューハーフのそれになってしまった。

 コンビニなどのレジの会計でとても困るのである。そのビカビカの爪を隠すためにポケットに安易に片手を突っ込んだままだと、なんだこいつ失礼な奴だな、などと殴りかかられたり、もしくは逆にこいつは拳銃を握っておるなと勘違いされ通報、警察が来、「年齢は、職業は?」という例の問答になってしまうので、思い切ってエメラルドグリーンに輝くそれをヒラヒラと前面に押し出して、しかしとても恥ずかしいので表情だけは固くしかめっ面で豚まんの代金を渡したりお釣りを受け取ったりしているが、考えてみればコンビニの店員などは女学生なども多いはずで結果、変質者、ということになりやっぱり警察が来るというなんぼ考えてみても、今日の思索の涯にはそこにいきついてしまう。と言って、別に僕は逮捕されるようなことはまったくしていない。じゃ、全善で無悪か、といえばそれは色々あるわけで、君そんなことはもうしちゃいかんよ、くらいの事は誰にだってあるから、「それじゃ、400字詰め原稿用紙5枚を反省文として、あいうえお作文形式で書いて提出しなさい」となり、しょうがなく取り掛かるがまったく進まないのでビールを飲み、ビールを飲んでから、ビールを飲んだ。

 

 テレビの中ではうまそうにタバコを吸っている奴がいる。そんな奴をみるとタバコが吸いたくなる。野坂昭如が死んだ。NHKの女性アナウンサーは星柄のプリントがされたシャツを着ていた。違うチャンネルのアナウンサーは水玉だった。

 

2015年12月15日 記