焼蕎麦神

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 ヤキソバを食べた。二日続けて合計三食。

 なんとなれば家の近所にある神社に屋台が出ていたからで、僕はこのテキ屋の拵えるソースヤキソバが熱烈に好きであり、トンチキテンテンピーヒャラピーヒャラランとお囃子がこういう時ばかりは重宝する劇的に薄っぺらなうちの壁越しに聞こえてくると、ラブレターを書いていようが、鯖の棒鮨に昆布を貼りつけている最中だろうが、一刻入魂の仏像を彫っていようがほとんど夜逃げでもするようにすべて放っぽり出し、小銭を握りしめ買いに走るのである。

 プラスチックパックに詰まるソースの絡んだヤキソバはサラダ油にテカリまるで日焼けしたボディビルダーのような焦げ茶で疎らな緑の青海苔、深紅に染め上がった紅生姜が彩りを加え、ところどころに焦げきってカチカチになった麺やキャベツが入り混じる。

 屋台の焼きそばが何故こんなにも美味いのかと考えてみると、一年中各地を回り焼きそばを大量に焼き上げているのだから熟達、職人技、匠と言えるほどの技術があるかと言えば若者やギャルもおるのでそんなことはなさそうで、では食材に秘密があるかといえば麺やキャベツ、それからソースなどは業務用ではあれ特に選び抜かれたというわけでもなく、しかしそれらが選ばれた理由はあるわけで、一個400円、価格を鑑みれば自ずとそれは安さ、コストの面である事が必然、銭勘定が剥き出しであり、むしろ食材選別はプラスではなく、ならば例えばそれを補いかつ余裕で超越する料理に対する愛或いはそば焼きプライドみたいなものが込められているかも知らんと仕事っぷりを眺めてみたが、あらぬ方向を向き鉄板にまるで興味をしめさなかったり、中空を睨みタバコをふかしながらやっていることなどもあるといった風で一向それは感ぜられぬ。

 そういう事であっては本来、もうこれは考え得る最高にマッドマックスな駄ヤキソバといってもいいが、それでもそれら負の要素蓄塊にも関わらず逆転満塁ホームラン的に美味であるのはもはや人智の範疇外、神秘、であれば神社の境内で作られているからと考察するのが論理筋、パワースポット、つまりそこに祀られている神さまや狛犬、お稲荷さんなどが肩入れ、助力注力していることが考えられ、そうでもなければあの中毒性すらある美味しさは説明がつかぬのであり、という事はこれはもう確実な神の存在証明という事であり、だがいわゆるゴッド的なものではなく日本固有の八百万の神、例えば西洋式黒色調味液炎焼蕎麦神様、これではよくわからぬので現代風に訳し略称、ソースヤキソガミサマと呼べそうな割合ポップな感じの方だが、それでもタマゴが先か鶏が先かみたいなことや何かの小説に出てきた「黒豚の耳」、コペルニクス的転回というレベルを遥かに超越した誰も出来なかった発見なわけで、これを論文にし、アカデミックな学会でスクリーンに映し出した図解や写真、それから著名な日本画家に依頼製作したそば神様の想像図、屋台で買ってきたプラスチックパックに詰められた紅生姜の添えられた焼きそばと材料は同じだけど中華の鉄人みたいな人が中華鍋をブンブンに振り回して拵えた焼きそばとをレーザーポインターで交互に指し示しなどし解説、動きがないと退屈してしまう人もあるだろうからテキ屋のおっちゃんの証言VTRやこれまでの「縁日と歩む人生」みたいな回想シーン、ドラマ仕立てなどを適度に織り交ぜながら発表、スタンディングオベーション、当然世界は驚愕、海外ニュースなどで速報、のち特別特集番組になり各宗教の専門家や識者、学者などが一堂に会し朝まで生討論、ノーベル賞などもガンガンに受賞するだろうし、結果、教授、博士などと呼ばれこっぱずかしさに尻がムズムズするな〜白衣はかっこいいな〜みたいな事になるわけである。

 論文を書く暇がないのでまだやっていない。