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シブッキーマウス

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 都市というとなんだか鋼鉄やコンクリートで囲まれており、自然や動物などまったくいないと何となく思い込んでいるが、見回してみれば、鳩は何かにしきりに頷きながら闊歩しているし、人間の様に服や靴などを着、御婦人に連れられておる犬、カラスはビルの間、人々の頭上を鋭く飛翔、円山町にはタヌキがいたし、すずめと柴犬はなんとなく似ているし、猫などは駐車場のスポーツカーのボンネット上で股をおっ広げて日向とじゃれており、その様をみた通りすがりの女子をニャーと甘声でぬかしナンパ、往来で頭や首それに腹等をさすってもらいかつ時には飯や飲料をもらうなどしてその日を暮らしている。

 

 4、5匹くらいがわらわらしている。

 何気なく眼をやると何やら小さな生き物がいたので小鳥たちが群れているのかと思ってよく見たらネズミだった。

 渋谷のスクランブル交差点である。ちょっとしたスペースの植込みがあり、銅のオブジェなんかも立っている。

 誰かが撒いた鳩のえさが目的のようで、しばらく見つめる僕を円らな眼で見返し、こっちがもっとよく見ようと近づくと低木の影にさっと隠れてしまう。そこで僕がなるべく動かないようにじっとしていると、まず斥候が1匹。何事も起こらないとみるとそれからはゾロゾロと出てきて眺めているとあっという間に大賑わいとなり、カメラを構えたままにしていた僕がシャッターを切るとそのカシャッという音に驚き植込みに一斉に猛ダッシュする。僕は気になって茂みになっている植込みを覗いてみた。

 いるわ、いるわ、そこら中にチュウチュウしていて、地面に掘った穴に飛び込んでみたり、顔だけ出してみたりする輩もおり、もうこれはちょっとしたランド、ネズミの国である。センター街の裏路地なんかでさっと走り去るのを見かけることはよくあるが、まさかあんなに人が行き交う場所に大勢して暮らしているとは驚いてしまった。もし三角形の穴あきチーズでも入れて捕りカゴでも置いたら、1時間もすれば山手線の通勤ラッシュみたいにギュウギュウのチュウ詰め状態になるだろう。

 一般にネズミというとあまりいいイメージではない。都会のネズミなどはとくにダーティーな感じもするし、農耕をして汗水垂らして米や野菜を作ることもなく、ビーバーみたいに河川にダムを建造し、野生の建築家だ、すごいね、みたいなこともなく、人の手によるもの例えば米とかチーズとかをとりあえず頂戴するので、盗人とまでは言わぬまでもなんとなくちゃっかり者、日陰者に見えるのだろう。

 しかし渋谷はスクランブル交差点、行き交う人見渡してみればリュックサックやバッグに携帯、デフォルメされたネズミのキーホルダーがぶらぶらしており、結局、白手袋して黄色い靴と赤い短パンを履いていればキャーキャーいうので、もしかしたらそんなに嫌いではないのかもしれない。

 実際のところビジュアルはとてもかわいい。ちょっとした出っ歯や長めのひげの具合など非常にキュートである。また、毛が灰色なのとドングリとかのメルヘンなファンシーアイテムを抱えていないだけで、大雑把にいってしまえばその容姿ほとんどリスである。いっその事、一頃の若者みたいにブリーチしてメッシュの茶髪にしてしまえばそれこそネイチャードキュメンタリーに出てくるシマリスで、好感度上昇、人気者になるに違いない。

 ただ、都会生まれの都会育ちだからか、木立に囲まれて様々な種類の木の実や果物ばっかり頬張ってきたお嬢さまリスに比べてやっぱり気持ち眼が鋭い、何となくすれている、ヤサグレている感じがする。陰でタバコなんかふかしていそうな雰囲気なんである。

 ちょっと前にニューヨークで自分の身体よりでかいピザの1ピースをズルズル引っ張って運んでいるネズミの動画が、ピザラットなんて言われて話題になっていた。ああいうのをみると、さすがアメリカのラットだぜ。と思う。

 ともすればそれは僕が勝手に抱く全身スターズアンドストライプスのレスリングスパッツを着、ティアドロップのサングラスをかけそれを覆うくらいにチューインガムを大きく膨らませて仁王立ち、傍にはきっとコーラがあり、その横にはピザとケンタッキーフライドチキンがある、というようなほとんどイメージ通りの様であり、寸分期待を裏切らない。

 

 ドンキホーテ前の交差点には交通違反に眼を光らせる警官が居、目の前には車に轢かれてぶっ倒れているドブネズミが一匹。